「黄金バット?」


 
 

  我が家には、コンピューター専用の部屋がある。

 ある朝、午前5時頃起きて、コンピュータールームに行くと、ドアに張り紙がしてあった。

なにか書いてあると思って、読むと

驚かないでください。信じられないかも知れませんが、

この部屋の中に蝙蝠(こうもり)がいます。

気をつけてください。

と書いてあった。

こおもりぃ!?

  なにを馬鹿なことを言ってるんだ。昨夜遅く、妻が張り紙をしたらしい。

 冗談だとしても突飛なことを言っている。コンピュータルームに私がこもりっきりなので、

いたずらしたようだ。バカらしいと思って、張り紙を剥いで、部屋の中に入った。

 

入って、一応部屋の中を見わたした。

         ・

         ・

         ・

 

  しかし、実際に奴はいた!

 

 部屋の天井近くの壁に

 スパイダーマンのように張り付いて、

 じっと私を見ている。ギョッとして、心臓が止まるかと思った。

 

 目と目があった。足がすくんでしまった。

 真っ黒い翼を広げて、壁に張り付いて、私をにらんでいる。

 さあ、どうする。どうする。

 

 どうしていいか、わからずに、しばしにらみ合いが続いた。

 山で、熊に遭遇したときにこんな状態になるのだろうと一瞬思った。

  目を逸らすことができない。体が動かない。

 でも、ここは住宅街のど真ん中だ。なんで蝙蝠がいるんだ。

 しかも私の部屋の中にいるなんて信じられない。

 どうしていいかわからない。

 

 

 

 

 そのとき、沈黙を破り、その黒い獣はいきなり、飛びたち、私のそばを

びゅーんと通過し、コンピュータールームから飛び去ってしまった。

 

 金縛り状態から開放されて、奴のあとを追った。

しかし、どこに行ったのか、見つけることはできなかった。

家の中にいることは間違いない。出口がないのだから、どこかに潜んでいるはずだ。

いくら探しても見つからない。

あきらめて、放っておくことにしたが、家のどこかに蝙蝠がいるとわかっているので

不気味であった。

 

妻に聞いたら、前日の夜、玄関をあけたときに、すれ違いざま

黒いものがびゅーんと家の中に入ってきて、

コンピュータールームに入ったという。

最初はなにかわからなかったが、よく見たら蝙蝠だとわかったという。

そのまま、不安の3日間が過ぎた。

      ・

      ・

      ・

ある朝、顔を洗おうとして、洗面所に行ったら、奴はいた。洗濯機の上に乗っていた。

今回は、私は冷静だ。まずバスタオルをそっと掴んで、蝙蝠にかぶせて捕まえた。

暴れずに静かに捕まえられた。

そのまま、玄関から外に持っていき、放したら、ヨタヨタと飛び去っていった。

どうやら、腹が減って動けなくなっていたようだ。家の中には餌は無いので空腹だったのだろう。

とりあえず、無事に解決。

いやいや、大変な日々であった。